「ゴホッ、ゴホッ、・・・と言う訳で、ごめんね。
今日の警備、突然代わって貰う事になっちゃって・・・」
「い、いいの。お大事にね」
「うん、ゲホッ、頑張ってね・・・」
めぐみは電話を切ると、とても断り切れない同僚の風邪声に溜め息を吐きました。
(どうしよう。まさか、盗みに入る予定の場所で、警備に駆り出されるなんて・・・)
目の前には下品過ぎるくらいに飾られた豪邸が建っています。
色々と黒い噂の流れる、お偉いお役人の屋敷です。
そんな屋敷に巷で噂の怪盗バタフライ仮面から予告状が届いたのですから、お役人は大騒ぎ。
すぐに繋がりのあった警察に警備を求めました。
(お休みの予定だったから、予告状出したのになぁ・・・)
警察官である「めぐみ」は、
実は悪い相手にだけ盗みを働く「怪盗バタフライ仮面」でもあるのです。
ところが今日は、どちらも同じ場所で仕事が入ってしまったのですから、
困った事になりました。
「一人が本当に二人になれるワケもないし・・・」
「ドオオォォーーーン!」
めぐみが頭を抱えて悩んでいると、突然屋敷の方から爆発音が聞こえました。
「な、何だ!バタフライ仮面の仕業か!」
(私はここにいるのに、そんなはずは無いわ)
「急げ!爆発があった場所に急ぐんだ!」
驚くめぐみですが、考えこむ暇はありません。
慌てて彼らの後を追います。
辿り着いたそこは、例のお宝が保管されている部屋でした。
しかし、先ほどの爆発の為か、部屋の中は酷い煙で覆われています。
「な、何だこれは!」
「くそっ!煙で何も見えんぞ!」
「宝を守れ!守るんだ!」
そう叫ぶも見えなければ、犯人どころか守るべき宝さえも確認出来ません。
それを嘲笑うかのように、聞き覚えのある声が高らかに響き渡りました。
「ハッハッハッ!バタフライ仮面は、まだ来ていないようだな。
我が名は怪盗レパン!一足先に宝は頂いた!」
イラスト by ねもこ様
バタフライ仮面を敵視している怪盗レパン。
なるほど、手段を問わない彼女ならば建物を爆破するくらい何の事はないでしょう。
「それでは、ポリ公ども。さらばだっ」
そう言って軽やかに屋敷を立ち去ったレパンでしたが、
アジトに戻って宝を確認してみると・・・。
「なっ!?これは偽物ではないか!確かに本物が飾られていたはず・・・。一体どうして?」
偽物を握りしめながら考え込んで、「ハッ」とレパンは気付きます。
「まさか、あの場所に既にバタフライ仮面がいたと言うのか?
私はまんまと踊らされて・・・。くっ!」
(ふう、助かったわ)
めぐみは騒ぎに乗じて、こっそり隠し持っていたレプリカと本物をすり替えていたのです。
警官達はともかく、宝の位置をしっかりと把握していたバタフライ仮面にとっては簡単な事。
しかも、
なんていうメッセージカードを置いてきたのですから、
警官達はレパンよりもバタフライ仮面にやられたと悔しがっていました。
めぐみも、みんなの前では悔しがる素振りは見せていましたが、
正体をバラさずに盗みを成功させ、一人心の中で笑うのでした。